公立学校の事例


東京都内の公立中学校・小学校

 

  教育支援ボランティアによる英語活動にシンセティック・フォニックスを導入する授業支援が、小中連携で始まっています。

    JP研修センターOfficial Trainerも、授業の組み立て、教材の活用方法、教材作りも含めた研修サポートを行っています。


実践例

小学校における緑中学校区小学校連携事業                「破格の英語力育成計画!」への協力

(平成29年4月現在)

東京都小金井市立緑中学校区<小金井市立小金井第三小学校、緑小学校>における

英語活動ボランティアによる実践

 

 

概要

次の4項目について東京都小金井市立第三小学校、緑小学校の実践例を紹介する。

 

1)シンセティックフォニックス導入のきっかけ

2)基本の42音指導内容

3)課題と対策

4)英語活動ボランティア運営の仕組み

 

 

 

 

 

内容

1)シンセティックフォニックス導入のきっかけ

 

 小金井市立小金井第三小学校(以下三小)と小金井市立緑小学校(以下緑小)の全児童が小金井市立緑中学校(以下緑中)の校区に在住するという特質を活かし、三小、緑小、緑中の三校連携で学力向上を目指すこととなる。小金井市教育委員会の指針の一つである地域人材、外部人材活用の充実の一環として、「英語力の向上」を実現すべく、平成27年10月に保護者のボランティアを募集した。同年12月より両小学校、中学校、Japan Synthetic Phonics研究会(以下JSP研究会)の連携により小学校で英語活動ボランティアによるシンセティックフォニックス(以下フォニックス)の授業を開始した。

 フォニックスに注目した理由は平成30年度の学習指導要領の柱として英語の教科化が見込まれ、5、6年対象の「聞く」「話す」のみを中心としたコミュニケーション能力の素地を養うという目標が、「読む」「書く」の育成も含めたコミュニケーション能力の基礎を養う、という目標に変更されるためである。フォニックスは理論性、実証性とともに明確な手法があるため、三校の校長がこの指導法を導入することを決定した。フォニックスを両校の小学6年の児童に導入することで小学から中学への英語学習のスムーズな移行、そして学力の底上げが期待される。

 

活動内容、英語活動ボランティアの要件は以下の通りとした。平成29年4月現在両校合計約20名(随時募集。増減あり。)が活動をしている。

 

「活動内容」

ねらい:楽しく英語学習に取り組み、話す、聞く、読む力を伸ばす

活動場所:三小と緑小の教室に同一ボランティア組織が出向いて活動

活動内容:英文字の発音を中心とした教材(フォニックス)に基づく基礎学習

対象児童:小学6年生( 平成27年度、平成28年度、平成29年度)、5年生(平成29年度)

授業回数:平成27年度 5回、平成28年度 15回、平成29年度 小学5年、6年各8回

使用教材:Jolly Phonics

授業案作成:英語活動ボランティア(原案作成/内容審査 JSP研究会 木澤利英子先生)

 

「英語活動ボランティアの要件」

対象:保護者

要件:子供が好きで英語に興味がある。規約に法って活動する。

報酬:無償

活動:打ち合わせ(週約2回)、及び授業(年度により異なる)への可能な範囲での参加

 

 

2)基本の42音指導内容

 

 各授業での音の導入においては、ストーリー、発音とアクション、文字説明、音韻認識を行い、音数に合わせて音をつなげて読む練習(以下ブレンディング)と聞いた音を文字にする練習(以下セグメンティング)のゲーム(以下アクティビティ)などを行った。年度によっては見たまま覚える必要のある単語(以下トリッキーワード)、同音異綴りの紹介、マジックeと呼ばれる手法なども紹介した。各年度の授業概要は以下の通りである。

 

【平成27年度】

 平成27年度は、英語活動ボランティア発足後の12月〜3月に5回、両校合わせて6クラスが対象となった。

 

第1回 事前アンケート、事前テスト、日本語と英語の違いについて説明、/s/の導入

第2回 /a/, /t/, /i/, /p/の導入、ブレンディング、セグメンティング

第3回 /n/,/ck/, /e/の導入、ブレンディング、セグメンティング、音カルタ

第4回 /h/, /r/, /m/の導入、ブレンディング、セグメンティング、ビンゴ

第5回 /d/の導入、ブレンディング、セグメンティング、事後アンケート、事後テスト、まとめ

 

【平成28年度】

 平成28年度は両校15回、両校合わせて6クラスが対象で授業を行った。音の導入の順番は一文字一音を先に導入し、二文字で一音(以下ダイグラフ)は後半に指導した。また母音の説明をしやすいよう、母音を含むダイグラフはなるべくまとめて紹介した。

 

第1回 アンケート、測定、日本語と英語の違いの説明、/s/

第2回 /a/, /t/, /i/、ブレンディング

第3回 /p/, /n/, /ck/, /e/, ブレンディング、セグメンティング、ビンゴ

第4回 /h/, /r/, /m/, /d/、ブレンディング、セグメンティング、穴埋めゲーム

第5回  /g/, /o/, /u/、ブレンディング、短母音まとめ、文字テスト、アンケート

第6回 復習、/l/, /f/, /b/、ブレンディング、セグメンティング

第7回 /j/, /z/, /w/, /v/、ブレンディング、子音+子音プリント

第8回 /y/, /x/、ビンゴ、測定、長母音の説明

第9回 /ai/, /ee/, /ie/, /oa/, /ue/、短母音と長母音のまとめ、ブレンディング、セグメンティング

第10回 /OO/(短い/oo/), /oo/, /ou/, /oi/、「/OO/, /oo/プリント」、母音カルタ

第11回 /or/, /er/, /ar/、長母音カルタ

第12回 復習、/ng/, /ch/, /sh/、/n/, /m/, /ng/プリント

第13回 /th/, /TH/(/th/の無声音), /qu/、セグメンティング

第14回 マジックe、 トリッキーワード、同音異綴り

第15回 文を読んでみよう、測定、まとめ

 

【平成29年度(予定)】

 平成29年度は5, 6年両学年に両校8回、合計11クラスが対象で授業を行う予定である。平成29年4月現在の予定は次の通りである。音の導入の順番は前年度と異なり教材本来の音順とした。

 

第1回 フォニックスの紹介、/s/, /a/, /t/, /i/,/p/, /n/、ブレンディング、セグメンティング

第2回 /ck/, /e/, /h/, /r/, /m/, /d/, /g/, /o/, /u/, /l/、アクティビティ(未定)

第3回 /f/, /b/, /ai/, /j/, /oa/, /ie/, /ee/, /or/、夏休み用課題

第4回 /z/, /w/, /ng/, /v/, /OO/, /oo/, /y/、アクティビティ(未定)

第5回  /x/, /ch/, /sh/, /th/, /TH/, /qu/, /ou/、アクティビティ(未定)

第6回 /oi/, /ue/, /er/, /ar/、マジックe、トリッキーワード、同音異綴り

第7回 まとめ、復習

第8回 まとめ、復習

 

 

3)課題と対策

 

 各年度ごとに課題と対策があり、定期的に英語活動ボランティアでの打ち合わせ、両校長、JSP研究会のメンバーと共に解決策を模索した。各年度に対応した代表的な課題と対策は次のとおりである。

 

【平成27年度】

 授業を6年6クラスに5回行った後、両校長及び中学校校長、JSP研究会と英語活動ボランティアで打ち合わせを行い、次年度に向けていくつかの改善案を検討し話し合った。主な課題と対策は以下の通りである。

 

課題1 フォニックスの授業をAssistant Language Teacher(以下ALT)の授業と連携させたい。

対策 現状ALTの担当者との打ち合わせが難しいため、フォニックスで学んだことをALTの授業で活かすという方針で進める。

 

課題2 フォニックスの授業では日本語での説明が多い。

対策 フォニックスの授業は日本語なので児童が説明を理解できるという強みを活かす。英語でやりすぎると、やる気の低い児童が英語を嫌いになる危険性がある。

 

課題3 できる児童とできない児童の差がある。

対策 複数の英語活動ボランティアが授業に入り、細かく補助をする。また、音の導入の時間を短縮してブレンディングやセグメンティングの時間を多く取り学習機会を増やす。

 

課題4 もっと単語を教えたい。

対策 まず基本の42音を入れることを目標にして、習った音だけを使って単語を読ませる

 

課題5 単語を知らないのでブレンディングができない。

対策 ブレンディングもセグメンティングも意味のない文字列でも練習になることを事前に説明する。

 

【平成28年度】

 英語活動ボランティアとしても学校としても初めて1年間両校にフォニックスを導入した年度であり、多くの課題があり何度となく対策を繰り返した。主な課題と対策を紹介する。

 

課題6 音韻認識がつまらない。

対策 音韻認識で学習している音が言葉のどこにあるかを確認する際、どこに入っているのか漠然と聞くだけでは飽きてしまう。そこでメリハリを出すため、最初にその音があれば指で1、途中にあれば2、最後にあれば3、なければ「グー」を出してもらうという方法を取った。しかし、毎回の授業で同じ手法では6年生の児童には退屈に感じるため、2学期以降は、音のストーリーの中で学習する音の入った単語を紹介し、話の後で今紹介した単語に該当の音があったかどうかを挙手や指名やゲームのようなやりとりで答えてもらうなど工夫した。

 

課題7 音の説明が1回の授業で何度も続くと飽きる

対策 音の導入の間にブレンディングやセグメンティングのアクティビティを入れたり、1回の授業で複数の英語活動ボランティアが交替で指導するなど変化のある構成になるよう工夫した。

 

課題8 授業展開がマンネリ化する

対策 音の導入には基本の形がある。Jolly Phonicsの教材であるビッグブックというお話がの絵が描かれた本を見せて、ストーリーを説明し、音とアクションを実際にやってもらい、文字を教え、音韻認識とブレンディング、セグメンティングを行うという流れだ。そのため毎回の授業の流れが似ていて児童が飽きてしまうという課題が生じた。そこで、ストーリーを説明する時に児童に質問をしたり、出てきた単語をクイズで答えてもらったり、ブレンディングやセグメンティングの作業では、読ませる単語をびっくり箱から出したり、くじ引きで引いてもらうなど児童が面白いと感じるような要素を増やした。

 

課題9 子供っぽい

対策 イギリスの小学校1年、2年が対象の教材なので6年生には子供っぽいと感じるという意見があった。しかし逆に絵やストーリーに興味を持ち楽しみにしている児童もいた。ビッグブックには英語圏の生活の様々な絵が描かれているので、この特質を利用して文化の違いなどを紹介し、より多くの児童に興味を持ってもらうようにした。

 

課題10 音と文字がつながらない

対策 音とアクションはつながるのに、文字を見て音がわからない、音を聞いて文字がわからない、という状況があった。そこで音を聞いて文字を探すビンゴやカルタのようなアクティビティを取り入れるよう工夫した。また文字をストーリーやアクションと結びつけて説明した。例えば/e/は卵を割るアクションで覚えるので、卵がヒビが入ったような形の文字だと説明するなどした。

 

課題11 聞く時間が長い

対策 音の説明が長いので、もっと児童に発言させたり考えさせる時間をより多く作るためグループで言葉を読んだり、言われた言葉の音を文字カードで並べるというアクティビティをした。またビンゴゲームは児童が主体的に関われ楽しめる教材となった。

 

課題12 言葉の意味を知りたい

対策 前年度は言葉の意味を教えることに重点を置かなかったが、対象が6年生ということもありクラス担任からも意味を知らせたいと言う意見があった。そこで、ストーリーに出てくる言葉、アクティビティーの中に出てくる単語になるべく絵をつけたり、知っていそうな単語は質問するなどして言葉の意味も伝えるようにした。

 

 

【平成29年度】

平成29年度の英語活動ボランティアのフォニックスの授業は5, 6年生に対して各8回となり、大幅な変更が求められた。平成28年度の実施内容の課題と対策予定案は次のとおりである。(平成29年4月現在)

 

課題13 年間8回の授業のため音と文字とアクションの定着が難しい

対策 「予習」→「授業」→「復習」という流れにする。予習では、授業日の少し前に次回予告のプリントを配布して児童に内容を周知する。授業ではできる限り簡単に多くの音を紹介し、繰り返し練習する。復習としてクラス担任の行う外国語活動の授業でフォニックスで習った音をフラッシュカードで練習してもらう。復習の効果を高めるためフラッシュカードの裏には簡単な指導文やイラストを記載した。教室には基本の42音の文字とアクションの書かれた表を掲示してもらう。

 

課題14 8回の授業での文字指導が十分にできるか

英語活動ボランティアの授業では音とアクションの導入と練習に重点を置くため、大文字小文字の書き方指導、アルファベットの名前と順番についてはクラス担任の外国語活動の授業内で指導してもらう。

 

課題15 アクションが恥ずかしい年頃

対策 アクションをすることで音と文字の関係を覚えやすく、良い音が出せることを周知させる。

 

課題16 ALTとの連携ができないか

対策 平成27年度から出ている課題であるが、平成29年度はALTやクラス担任の授業で使用する教科書を借り、可能な範囲でフォニックスで習った手法でそれらの教材が読めるという実感を味わってもらう。

 

課題17 後半に二文字で一音のダイグラフ(以下ダイグラフ)を導入すると難かしく感じる。

対策 平成28年度は本来の教材の順番通りではなく、ダイグラフを後半に指導し、母音を含む音をまとめて紹介するなど、伝えたい内容に合わせて導入する音の順番を変更した。しかし、後半にダイグラフが紹介されると急に難しくなるという問題が生じた。また教材を順番通り使えないので使用するビッグブックの順番が度々変わり作業が煩雑になるなどの問題もあった。そのため平成29年度は教材の順番通りの導入とする。

 

 

4)英語活動ボランティア運営の仕組み

 

 年間授業の大枠を両小学校校長、JSP研究会のメンバー、英語活動ボランティアで検討する。各授業の詳細内容はJSP研究会の木澤利英子先生の原案をもとに英語活動ボランティアが作成。英語活動ボランティアが対象学年の教室でフォニックスの授業を行う。教室では先生役の英語活動ボランティアが2〜3名前に立ち指導する。教室の後ろや横に数名が補助として参加し児童たちに細かく対応する。小学校校長、クラス担任や英語担当の教員、そしてJSP研究会を交えた反省会なども随時行い改善を重ね、中学校にも適宜報告をしている。学習成果、意欲の変化についてはJSP研究会の木澤利英子先生が調査し結果を小学校などに報告している。

 英語活動ボランティアは、メンバーの強い活動意欲も欠かせないが、学校長や教員のシンセティック・フォニックスへの理解、及び英語活動ボランティアの授業が成り立つための細かな対応、さらにはJPTC:JP研修センター、JSP研究会の方からの惜しみない情報提供、そして地域の皆様のご理解のおかげで成り立っていると考えられる。

 

以上

高橋まき子 :英語活動ボランティアメンバー

 JPTC:JP研修センター Official Trainer

 英国Jolly Learning社公認 Jolly Phonics Professional Trainer                       

 Japan Synthetic Phonics研究会会員

  (CPD College Jolly Phonics 修了)

  (CPD College Jolly Grammar 修了)